【美術に興味が持てない人に】イタリア美術入門書としての塩野七生

美術や絵画にあまり興味がない人でも、イタリアに行ったら、とりあえず有名な作品は見ておこう、と美術館に行くことが多いと思います。

私も、どうせなら、と「イタリア美術史」的な入門書を手に取ったりもしたのですが、美術の素養がないため、ほとんど頭に入ってきませんでした。教科書的な解説書より、著者の好みや思い入れが加味されたもののほうが読みやすいようで、
塩野七生著「ルネッサンスとは何であったのか」は、
入門書として書かれたものではありませんが、美術に疎い自分には格好のイタリア美術入門書となりました。

 

「ガイドの説明も、聴き流していればよい」

美術や絵画に疎い自分が、少しではありますが興味を持てるようになってきた経緯みたいなものを、塩野七生著「ルネサンスとは何であったのか」を引用しながら、書いてみようと思います。

(以下、引用箇所はすべて同書から)

まず、作品の見方について、こう書いています。

レオナルドやミケランジェロの作品の前に立ったときは、これらの天才たちを解説した研究書などを読む必要はない。ガイドの説明も、聴き流していればよい。それよりも、あなた自身が「年少の天才」にでもなったつもりで、「虚心平気」に彼らと向き合うのです。

これを真に受け、美術に関する知識やセンスがなくても、実物を目にすれば理屈なしでビビっと心を打たれるような瞬間があるかもしれないと思い、イタリアの有名な美術館は各々2回以上足を運びました。でも、どんな名作でも、キリスト教や聖書の場面を題材にした絵画はどうにもピンとこなくて、つくづく自分の感性の乏しさがイヤになります。。

それでも、つい足を止めて見入ってしまう作品があることはありました。

自分の場合、それは主に肖像画でした。

 

「ティツィアーノなくしてヴェネツィアなし」

つい足を止めて見入ってしまう肖像画の中でも Tiziano Vecellio という画家のものが、どうやら自分の好みらしいと分かってきました。

レオナルドなくしてルネサンスなし、
と言い、
ローマなくしてミケランジェロなく、
ミケランジェロなくしてローマなし、
と言ってよければ、
ヴェネツィアなくしてティツィアーノなく、
ティツィアーノなくしてヴェネツィアなし、

Tiziano Vecellio(1487~1577)は、ルネサンスを代表するベネツィア派の画家であることを知りました。

最近、ミラノ・ブレラ美術館で見て印象に残っているこれ↓を描いたベッリーニ兄弟もベネツィア派ということで、「ルネッサンスとは何であったのか」の第4部「ヴェネツィアで考える」を読み直してみました。

 

ヴェネツィア派の色彩と運河の関係

同書の第4部「ヴェネツィアで考える」に、ベネツィア派の特徴について書いてあります。

ベネツィアでは、降りそそぐ陽光は、直接に降りそそぐ光に加えて運河の水に反射して帰ってくる光もあるのです。このヴェネツィアでは、色彩もより多様にならざるをえない。これが、ヴェネツィア派の画家たちを、その中でも最もヴェネツィア的な画家であるティツィアーノを、他のどこにも存在しない色彩の画家に育てたのでしょう

こういう説明を読むと、本当に「へぇ~」と深く頷いてしまいます。

塩野七生の代表作は「ローマ人の物語」ですが、これについては、ローマの歴史をよく知った上でイタリアの街を歩いたらもっと楽しいだろうなと思い、かれこれ3回はチャレンジしました。が、日本の歴史と違って人物に馴染みがないため頭に入って来ず、途中で挫折。未だに読破できていません。

それに比べると、この「ルネサンスとは何であったのか」は対話形式でもあり、とても読みやすいです。

 

「見ただけで一遍の小説が書ける」ティツィアーノの肖像画

「ティツィアーノなくしてヴェネツィアなし」のティツィアーノの肖像画について、同書ではこう言っています。

彼の描く人物像は、その人物に似ているだけでは終わらず、描かれている人生までも感じさせてしまう。小説家ならば、ティツィアーノの人物像を見ただけで、一遍の小説が書けるはずです。

フィレンツェ・ウフィツィ美術館にはそのティツィアーノの肖像画がまとまって見られる部屋があります。

↓「病の男の肖像画」
(Ritratto virile detto “L’uomo malato”) ↓「Ludovico Beccadelli司教の肖像画」
(Ritratto del Vescovo Ludovica Beccadelli)↓「Rovere家のFrancesco Mariaの肖像画」
(Ritratto di Francesco Maria I della Rovere)

自分には、色彩がどうとか、美術的手法とかは分かりませんが、どの肖像画も、何とも言えないな微妙な表情が、とても印象に残ります。

 

権力者から肖像画の依頼が殺到

上記の1枚は「病の男」という無名の人物の肖像画ですが、ヨーロッパ中の権力者や貴族からも依頼が絶えなかったそうです。

当時(16世紀半ば)のヨーロッパの最高権力者は、神聖ローマ帝国皇帝カール五世で、

この人はティツィアーノにしか肖像画を描かせず、このヴェネツィア人を、王宮のあったスペインのマドリードに、三顧の礼をつくして招いている。

こんなのを読むと、俄然このカルロス皇帝の肖像画が見たくなってきます。

が、所蔵はイタリアの美術館でなく、マドリードのプラド美術館。。

権力者の肖像画といえば、ティツィアーノと同じヴェネツィア派の画家ジェンティーレ・ベッリーニも、

1479年、ヴェネツィアの元首の命でコンスタンティノープル(現イスタンブール)に赴き、当時のスルタン、マホメッド二世の肖像画を描いた。

こちらもイタリアの美術館ではなく、ロンドン・ナショナルギャラリー所蔵。

特定の美術館の鑑賞を目的とした旅行などしたことがありませんでしたが、この本を読むと興味が広がり、マドリードとロンドンには、上記の美術館目的で行ってみるのもいいかも、とさえ思っています。

特に、マドリード・プラダ美術館には、ティツィアーノの自画像も所蔵されているので、これほどの肖像画を描く画家の自画像がどんなものか、ぜひ実物を見てみたいです。

(おわり)