最近、イタリアの新聞で、オランダ・ルッテ首相がクローズアップされています。
EUの「復興基金」に関する記事の中にほぼ必ず出てきます。
復興基金は、新型コロナで打撃を受けたヨーロッパ経済を立て直すためのもので、7月17日から開かれているEU首脳会議で話し合われています。
構図としては、、
イタリア ← 早くからEUに援助を求めていて「このピンチに助け合えなかったら何のためのEU?」という不満がたまっている。
オランダ ← とにかく財政規律を重視。返済不要の補助金が多くなるのは絶対ダメという「倹約」北欧諸国の筆頭格。
EUが特定の国を援助することで結果的に財政が良好な国が借金を肩代わりすることになる。。
これを絶対に許してこなかったドイツが渋っているというであれば、今までもよくあった対立構図です。
今回はオランダが断固として譲らないという構えで、首脳会議前からイタリアvsオランダ、特に、対オランダ・ルッテ首相みたいな構図ができあがっていました。
融資金(返さなければいけない)と補助金(返さなくてもいい)の比率
EUが調達する復興基金の規模は7500億ユーロと、5月頃決まったみたいです。
その内訳は、
- 返さなければいけないお金(融資金)
- 返さなくてもいいお金(補助金)
となっていて、この比率をどうするか。
コロナ被害が大きかったイタリアやスペインはもちろん補助金の比率をあげてほしい。
対して、北欧諸国(オランダ、スウェーデン、デンマーク、オーストリア)は、返済義務のある融資金のほうを多くするべき、と主張しています。
一番大変だったときに助けてくれなかったEU
イタリアのコンテ首相は、本当に大変だった3月、4月ごろからEUに支援を求めていましたが、どの国も自分の国を守ることに必死でそれどころではありませんでした。
この時期は外出制限中で新聞にもよく目を通していたので、その頃の空気を覚えています。
こういう時に助け合えなくて何のためのEUなのか、とコンテ首相はよく怒っていました。
そういった経緯があっての今回の首脳会議。
イタリアは、返さなくてもいい補助金のほうをたくさん欲しい。コンテ首相はブリュッセルに出発する前から「絶対に妥協しない」と気合が入っていました。
イタリアvsオランダ
首脳会議ではやっぱりオランダ・ルッテ首相が、返済義務のない補助金の比率を下げるべきだ、という主張を譲りません
イタリア・コンテ首相も、首脳会議の前から「絶対に妥協しない」と言っていた通り譲歩せず。
こうして、首脳会談は(イタリア人にとっては)イタリアvsオランダが焦点に。
会議開始2日後、全国紙コッリエラデッラセーラ紙にこの2カ国間の国民感情について書いた解説記事がありました。

イタリアで最も長い歴史をもつ全国紙の政治解説記事ですが、サッカーの写真を使っています。
左の写真の人物は、オランダの極右政党「自由党」のウィルダース党首。持っているフリップボードには「イタリアには1セントもあげるな」。
イタリア人がオランダ文化に対して抱く好感情
この記事は、本の引用や歴史を踏まえての解説が多くて、その基礎知識がない自分には難しく、その都度ネットで調べたりして、読むのにとても時間がかかりました。

⚫︎ サイモンシャーマ(英国の歴史家、らしいです)がその著書で指摘しているようにオランダには歴史的に富裕に対して罪悪感のようなものがある
⚫︎ EUの前身「欧州石炭鉄鋼共同体」の時代、イタリアの若い外交官は、オランダと鏡のように反対のポジションをとるように教えられた
⚫︎ オランダは、EUの前身「欧州石炭鉄鋼共同体」からの加盟国であるが、自分たちに利があるときだけの欧州主義で、型にはまらないというメンタリティ
⚫︎ イタリア人はオランダ文化に好感を抱いている。ゴッホやフェルメール、干拓の歴史、ソフトドラッグ合法など。
⚫︎ その好感情を決定付けたのがオランダのサッカー。70年代のクライフ率いるオランダ代表はイタリア人にも大きな影響を与えた ← これが記事の写真
と、だいたいこんな内容で、イタリア人がオランダに対して抱いている好感情をもってしても、今回のルッテ首相に高慢さを感じることの妨げにはならないと結んでいます。
そして、記事の見出しにもなっていますが、オランダが外国企業を誘致するため税制の優遇措置をしているのはダンピングである、という「それはいま関係ないのでは?」と感じるような批判まで。
それにしても、こういう全国紙のちゃんとした政治解説記事にサッカーを引用してきて、その写真まで載せるところが面白いと思いました。
(おわり)